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不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。
と、小谷が云つた。
「いるかね。いたら、高間さんが御挨拶に見えたからと――」
二人とも巻ゲートルに地下足袋姿であつた。そのうちの一人は印袢纏しるしばんてんを着ていた。房一の見たこともない連中だつた。だが、先方ではこの釣竿をかついだ猪首のやうな男が目ざすお医者だと気づいたのだらう、印袢纏の背の高い男は黄く汚れた半シャツの男に向つて、こちらを見ながら何か云つていた。
「まづい、まづい。酒がまづくなる」
「やあ、君か」
「あゝ、さうだつた。なあんだ!」
そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。
「おつ!こりあいかん」
午近くなつて空気は温められてどんどん上昇し、どこも冴えてきらめき、何か軽い気を遠くさせるやうな気配は、あのひつきりないざわめきによつてよけい強くなつた。誰も彼も上気し、家の中に落ちついてはいられなかつた。盛子は長い小豆色のぼかしのある羽織の下に、ふくらみのある身体を巧みに隠し、河場からやつて来た義母と並んで戸口に立つて通りを眺めていた。今さつき山車だしがそこを通つたばかりであつた。山車の屋上では狐忠信の人形が黒い眉を上げ、口をへの字に曲げ、腕を構へて造花の中に立ちながら、揺れて思ひがけない風に頭を振り、提灯と小旗の下を過ぎて行つた。と思ふと、そこの曲り角のあたりで拍子木の音が起り、山車はとまつて、乗つていた踊り子が山車についた舞台の上で扇をかざし、きつかけを外して囃はやし方かたをかへりみて恥しげに笑ひ、あらためて又とんと板を踏み鳴らし、何かの踊りをはじめるのが見えた。間もなくそれも遠くへ行つてしまつたが、人はざわざわ行つたり来たりしていた。そこらでも、こゝらでも、遠くでも、絶えずどよめきの音が聞えていた。
と云つたまゝ、盛子は房一の顔を見てくすりとした。そして、ばさばさ音をたてて大きくひろげてみせた。それは神官の着るやうな袍はうだの指貫さしぬきに模したものだつた。おまけに、ボール紙で造つた黒い冠、笏しやくの形をした板切れ、同じく木製の珍妙な沓くつだのいふ品々が揃つていた。
「それあ、しかし、何だな、知吉さんも今まで不服だつたのをこらへていたんだな、何分かの理窟はあるわけだね」
「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」