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「へえ、どういふわけでせう」
例の奉祝行列のお終ひに小谷から慰労宴をやらうと云はれたときに、房一は道平が練吉の診察を受けたまゝになつているのを気にかけていたことを思ひ出し、練吉をも加へて小谷と二人を招待しようと云つたのだが、小谷はそれはそれ、これはこれと云つて聞き入れなかつたので、改めて今二人を料亭染田屋に招いたのであつた。
「ふむ、ふむ」
が、それは徳次であつた。
三間つゞきの奥座敷では蝋燭だの燈芯の明りで照し出された仏壇を前に、来客達が思ひ思ひの所にかたまつて坐つていた。
すると、何てこつた、下手の渡船場の対岸にひよつこり房一の姿が現れた。河原に出ようとするらしく、自転車を厄介さうにわきに抱へて、崖縁についた急な小路をのろのろと危つかしい恰好で降りて来る。やつと判つた。今の今まで、徳次はそこに渡船場があるといふことを度忘れしていたのだつた。
「誰かと思つたら――」
かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、
「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
その時やつと、男は少しうなづいた。そして背中に負はれて出て行つた。
「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」
「いや、人目がなきあそれどころぢや済まんでせう」